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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)9727号 判決 1966年7月26日

原告 川田和生

被告 大竹英子

被告 五十嵐成志

主文

被告らは、原告に対し原告が訴外広島助一との間で別紙物件目録記載の建物について昭和三八年七月二二日東京法務局大森出張所受付第二三七九〇号所有権移転仮登記に基き昭和三九年九月九日の代物弁済を原因とする本登記手続をすること、及び原告が訴外広島実との間で別紙物件目録記載の土地について昭和三八年七月二二日右出張所受付第二三七八八号所有権移転仮登記に基き昭和三九年九月九日の代物弁済を原因とする本登記手続をすることをそれぞれ承諾せよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

一、双方の申立

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求めた。

二、原告の請求原因

(一)  原告は、昭和三八年七月一八日訴外広島助一、同広島実に対し七〇万円を弁済期同年一〇月一七日、利息年一割五分、弁済期後の遅延損害金日歩九銭の約で貸与し、同時に右債務を担保するため訴外広島助一はその所有にかかる別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)につき、訴外広島実はその所有にかかる同目録記載の土地(以下本件土地という)につきそれぞれ原告に対し抵当権を設定すると共に右借受金を弁済期に支払わないときはその弁済金に代えて各自その所有にかかる右不動産の所有権を原告に移転する旨の停止条件付代物弁済契約をし、昭和三八年七月二二日東京法務局大森出張所受付第二三七八七号をもって各々抵当権設定登記をすると共に主文第一項記載の各所有権移転仮登記を了した。

(二)  ところで、右訴外人両名は、弁済期に右借受金を支払わなかったので、原告は、昭和三九年九月七日同訴外人両名に対し内容証明郵便をもって代物弁済として本件土地・建物の所有権を取得する旨の代物弁済完結の意思表示をし、同郵便は同月九日右訴外人らに到達した。

したがって、原告は、同日本件土地・建物の所有権を取得した。

(三)  被告大竹英子は、登記簿上東京法務局大森出張所昭和三九年四月一一日受付第一〇九八八号をもって本件土地・建物につき根抵当権取得登記を、同日受付第一〇九九〇号をもって本件建物につき、同日受付第一〇九八九号をもって本件土地につきそれぞれ所有権移転仮登記を経由している。

また、被告五十嵐成志は、登記簿上右出張所昭和三九年四月二八日受付第一三〇一五号をもって本件土地・建物につき抵当権取得登記を、同日受付第一三〇一七号をもって本件建物につき、同日受付第一三〇一六号をもって本件土地につきそれぞれ所有権移転仮登記を経由している。

(四)  よって、原告は、被告らに対し原告が前記(一)記載の各登記に基き昭和三九年九月九日の代物弁済を原因とする所有権移転本登記手続をすることについて承諾することを求める。

三、被告らの答弁

請求原因(一)の事実は不知。同(二)の事実のうち原告主張の内容証明郵便が訴外広島助一、同広島実の両名に到達したことは認めるが、その余の事実は争う。同(三)の事実は認める。

四、被告らの抗弁

原告は金融業者であり、その主張する貸金額は七〇万円で弁済期は貸付日から三ケ月という期間であるところ、本件土地・建物の時価は計約三五〇万円である。このように短期間の弁済期を定め、期限に弁済しないからといって貸金額の約五倍相当の価格を有する右各不動産を代物弁済として取得する趣旨の契約は公序良俗に反し無効である。

五、<省略>。

六、証拠関係<省略>。

理由

一、成立に争ない甲第一号証ないし第三号証を綜合すると、請求原因(一)の事実を認めることができる。ところで、原告本人の供述によると、原告としては訴外広島助一、同広島実との間で弁済期に履行のないことを条件とする停止条件付代物弁済契約をしていても、当時弁済期の到来により直ちに本件土地建物の所有権を取得する意図はなく、自己の選択により代物弁済として右不動産の所有権を取得するか抵当権を実行するかを決する意向であったことが認められるから、停止条件付代物弁済契約とはいっても、原告の選択により代物弁済として右不動産の所有権を取得しようとするならば、代物弁済完結の意思表示によって代物弁済の効力が生ずる旨の代物弁済の予約であると解するのが相当である。

次に、原告主張の内容証明郵便が右訴外人両名に到達したことは当事者間に争がなく、また、成立に争ない甲第四号証の一ないし三及び原告本人の供述によると、右郵便は右訴外人両名に対しそれぞれ昭和三九年九月九日に到達したこと、及びその当時まで右訴外人両名は原告からの借受金七〇万円を返済していなかったことが認められる。しかして、右郵便による意思表示は代物弁済完結の意思表示であるということができるから、原告は、昭和三九年九月九日代物弁済として本件土地・建物の所有権を取得したものというべきである。

しかるところ、請求原因(三)の事実は当事者間に争がない。

二、ところで、被告らは、原告主張の代物弁済契約をもって公序良俗に反する無効のものであると主張しているが、本件土地・建物の時価が計約三五〇万円であることはこれを認めるに足る証拠がなく、また右契約が公序良俗に反するものであるとうかがわせるような事情は本件における全証拠をもってしてもこれを認めることができない。

三、してみると、被告らは、原告がその主張の所有権移転仮登記(主文第一項記載の仮登記)に基いて昭和三九年九月九日の代物弁済を原因とする所有権移転本登記をすることについて承諾する義務がある。<以下省略>。

<以下省略>

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